結婚相談所を一人で始めようとすると、必ず同じ不安にぶつかります。「自分ひとりで、何人まで面倒を見られるのか」。ところが調べても、この問いに数字で答えている情報がほとんどありません。連盟の説明は「専業でも副業でも可能です」で止まり、体験談は人によってばらばらです。
この記事では、IBJが公表する成婚者の活動データ(お見合い回数・在籍期間)から会員1名を預かるのに必要な時間を積み上げ、副業・専業・夫婦の体制別に上限人数を計算します。そのうえで、一人経営が実際に詰まる場所と、二人目を入れる判断基準まで扱います。開業の手順や費用の全体像は開業ガイドにまとめています。
結論:一人でも会員30名超は見られる|足りないのは時間ではなく集客
先に結論をまとめます。
| 問い | この記事の答え |
|---|---|
| 会員1名にどれくらい時間がかかる? | 月2〜3時間(お見合い11回・在籍8.4ヶ月から積み上げ) |
| 副業(週10時間)だと何名まで? | 会員約12名 |
| 専業(週40時間)だと何名まで? | 会員約34名(半分近くを集客に使う前提) |
| 夫婦二人だと? | 会員約58名(役割を分ければ) |
注目したいのは、IBJ加盟店の1社あたり平均会員数が約16名だという点です。これは副業として週10〜15時間を投じた場合のキャパシティとほぼ一致します。つまり業界の平均像は、一人では手が回らないから16名で止まっている、というわけではなさそうです(これは推計にもとづく仮説であり、確定した事実ではありません)。
一人経営の限界は、想像よりずっと外側にあります。制約になるのは会員を見る時間ではなく、会員を集める時間です。以下、根拠を順に開いていきます。
会員1名を預かると、月に何時間かかるのか
計算の出発点になるのは、IBJが公表している成婚者の活動データです。2025年に成婚した19,112名の実績から、次の数字が公開されています。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 在籍日数(中央値) | 276日(約9.2ヶ月) | 230日(約7.6ヶ月) |
| お見合い数 | 11回 | 11回 |
| 交際成立数 | 5名 | 4名 |
| 交際日数 | 125日 | 124日 |
会員1名は、およそ8ヶ月半のあいだに11回のお見合いをこなして成婚する。これが平均像です(男女の中央値9.2ヶ月と7.6ヶ月の平均で8.4ヶ月。以下は8.4ヶ月で計算します)。月あたりに直すと1.3回のペースになります。
ここに、相談所側の作業を当てはめます。以下の所要時間は公表値ではなく、業務内容から置いた仮定です。自分の進め方に合わせて数字を入れ替えてください。
| 業務 | 頻度・回数 | 1名あたりの合計 |
|---|---|---|
| 入会手続き・プロフィール作成・写真の相談 | 入会時のみ | 約3時間 |
| お見合いのセッティング (申込の確認、日程調整、会場の案内、前日連絡、結果の確認とフィードバック) |
11回 × 30分 | 約5.5時間 |
| 交際中のフォロー (次のデートの相談、迷いや不安への対応、真剣交際の判断) |
交際4〜5名分 | 約6時間 |
| 定例の面談・状況確認 | 8.4ヶ月 × 30分 | 約4.2時間 |
| 成婚の手続き・退会処理 | 成婚時のみ | 約1時間 |
| 合計(在籍8.4ヶ月) | - | 約19.7時間 |
19.7時間を8.4ヶ月で割ると、会員1名あたり月2.3時間。切り上げて月2〜3時間と見ておけば大きく外しません。以降は月2.5時間として計算します。
この数字が意外に小さく感じられるとしたら、それは正しい感覚です。結婚相談所の実務は、会員と長時間ずっと向き合う仕事ではありません。短い連絡が高い頻度で発生する仕事です。だから「1日の大半を拘束される」わけではない一方で、まとまった時間が取りにくく、平日の夜や土日に細切れの対応が積み上がります。この性質は、あとで扱う「詰まる場所」に直結します。
なお、成婚に至らず退会する会員や、活動を休止する会員もいます。休止中の会員には作業がほとんど発生しない一方、長く在籍して成婚に至らない会員はお見合い回数が増える傾向があります。両者はある程度相殺されるため、平均としては月2〜3時間を目安に置いて構いません。
副業・専業・夫婦|体制別に上限を計算する
会員1名あたり月2.5時間として、体制別の上限を出します。ただし可処分時間の全部を会員対応に使えるわけではありません。集客、連盟の研修や定例会、経理、そして自分の学習に時間を取られます。
| 体制 | 月の稼働 | 会員対応に回せる時間 | 上限の目安 |
|---|---|---|---|
| 副業(週10時間) | 約43時間 | 約30時間(3割を集客・事務へ) | 約12名 |
| 専業(週40時間) | 約173時間 | 約86時間(半分を集客・事務へ) | 約34名 |
| 夫婦二人(1.7人分) ※二人目は家事や本業と兼ねる想定。フルタイム2人分なら2.0倍で約68名 |
約290時間 | 約145時間 | 約58名 |
副業の約12名という数字は、年商と退出率を検証した記事で計算したIBJ加盟店の平均会員数16名とほぼ同じ水準です。ただしこれは推計どうしの一致であり、外部データによる裏付けではありません。加盟店には最初から複数人で運営する相談所や法人も含まれるため、平均16名の全部を「副業だから」で説明することはできません。あくまで、平均像が副業レベルの投下時間と矛盾しないという程度に受け取ってください。
そして専業なら約34名。これは同じ記事で「儲かる側の条件」として挙げた会員30〜40名の帯に届きます。年商にすると660〜880万円の水準に、一人のまま届きます。内訳はこうなります。
| 収入源 | 会員30名 | 会員40名 |
|---|---|---|
| 月会費(1万円 × 12ヶ月) | 360万円 | 480万円 |
| 成婚料(成婚退会率40%・20万円) | 240万円 | 320万円 |
| 入会金(退会分の補充・5万円) | 60万円 | 80万円 |
| 年商 | 660万円 | 880万円 |
| 連盟費用 (月会費15,000円+アカウント3,800円+会員活動費750円/名+新規登録料2,000円/件) |
▲52万円 | ▲62万円 |
| 集客費・通信費など | ▲60〜100万円 | ▲80〜120万円 |
| 手残りの目安 | 508〜548万円 | 698〜738万円 |
料金は複数の相談所で一般的な価格帯を、成婚退会率は約40%(年間成婚20,970組=41,940名 ÷ IBJ登録会員数107,597名。いずれもIBJ全体の数字)を使った概算です。これは1年間の回転率(ある時点の会員数に対する年間成婚数の比率)であり、1人の会員が最終的に成婚に至る確率ではありません。。連盟費用はIBJ個人契約プランの公表値(税抜)にもとづきます。営業利益率にすると7〜8割。仕入れも在庫も店舗も不要な事業構造がそのまま数字に出ています。人を雇わないと稼げない事業ではありません。
編集部の見解
専業のキャパシティが34名なのに、業界平均は16名。この差の全部を説明できるわけではありませんが、少なくとも「一人だから16名が限界」ではないとは言えます。手が足りなくなる前に、埋まらない枠のほうが先に残ります。だから開業の判断で確かめるべきは、自分の体力や事務処理能力ではありません。会員対応に使う時間と同じだけ、集客に時間を使い続けられるか。ここが分岐点です。
個人経営の強みは「担当が変わらない」こと
大手と個人、どちらが有利かという議論はよく見かけますが、たいていは「小回りが利く」「意思決定が速い」といった話に流れます。実際に差を生んでいるのは、もっと具体的な一点です。最初から最後まで同じ人が担当することです。
IBJが公式サイトで公表している調査では、成婚者に「婚活カウンセラーのサポートは必要だったか」を聞いています。
| 回答 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| とても必要だったと思う | 43.1% | 48.4% |
| 必要だったと思う | 46.0% | 44.1% |
| 必要だったと思わない | 10.9% | 7.5% |
出典:IBJ「数字でIBJチェック!」(成婚者アンケート)。同ページの成婚者データはIBJ結婚みらい研究所「成婚白書」に基づく
男性89.1%、女性92.5%がサポートを必要だったと答えています。この設問が聞いているのは満足度であって支払いの対象ではありません。それでも、成婚まで到達した人のほぼ全員が伴走を「必要だった」と振り返っている点は見ておく価値があります。データベースへのアクセスだけで完結する商品ではない、とは言えそうです。しかもIBJが公開している成婚者の声を読むと、その中身がはっきりします。断られて落ち込んだときに支えてもらった、交際相手の心情の変化を教えてもらえた、真剣交際に進むか迷ったときに背中を押してもらった。いずれも、その人の経緯を知っている担当でなければ言えない言葉です。
この点で、一人経営には構造的な優位があります。組織で運営する相談所では、異動や退職によって担当が替わる可能性が残ります。一人経営ではそれが起こりません。引き継ぎによる情報の欠落もなく、8ヶ月半の活動を最初から最後まで同じ人が見続けられます。規模が小さいことは、この事業では弱点ではなく仕様です。
逆に言えば、会員数を増やしすぎて一人ひとりの経緯を追えなくなった瞬間に、個人経営の強みは消えます。上限34名という数字は、時間の計算であると同時に、品質を保てる限界の目安でもあります。
一人で運営するなら、困ったときに聞ける相手がいるかどうかで差がつきます。IBJは6ヶ月の研修に加えて全国47都道府県に加盟相談所があり、困ったときに相談できる同業が近くに見つかります。一人経営でいちばん折れやすいのは、判断を相談する相手がいないときです。まずは資料で中身を確認してください。
資料請求は無料です(IBJ公式サイト)。費用体系が違う連盟もあわせて見るなら連盟6社の比較記事へ
一人経営が詰まる3つの場所
時間の計算では回るはずなのに、実際には手が止まる。その原因はほぼ3つに絞られます。
① 集客が会員対応の時間を食う
会員が少ない時期ほど、集客に時間を割く必要があります。ところが会員が増えてくると対応に追われ、集客が止まる。すると数ヶ月後に会員が減り、また集客に戻る。この往復で伸び悩む相談所が多く見られます。
先回りの手は単純で、集客の時間を先にカレンダーへ入れてしまうことです。会員対応は相手の都合で発生するため必ず優先されます。だから守るべきは集客のほうです。週に何時間を発信や広告運用に使うかを固定し、そこは動かさないと決める。この一点だけで、平均の16名と専業上限の34名を分ける差が生まれます。
② 稼働が土日と平日夜に集中する
お見合いは土日の昼間に集中し、会員との面談や相談は平日の夜に寄ります。つまり総時間としては足りていても、時間帯が偏るのがこの仕事の性質です。本業を持ちながらの兼業とは相性がよく、その一方で家庭の時間とは正面からぶつかります。
対策は、対応する時間帯をあらかじめ会員に伝えておくことです。「連絡は21時まで」「日曜は返信が翌日になる」と最初に共有しておけば、期待値のずれによる不満は起きません。これを決めずに始めると、24時間対応が当たり前になって消耗します。
③ 自分が止まると事業が止まる
体調を崩す、家族の事情ができる、旅行に行く。一人経営では、そのたびに会員のお見合いが止まります。在庫も店舗もない代わりに、事業の可用性が自分の稼働に100%依存しているのがこの形態の弱点です。
現実的な備えは2つあります。ひとつは連盟の仲間との相互バックアップ。定例会や研修で顔を合わせる相談所と、緊急時の一時対応を頼み合える関係を作っておく方法です。もうひとつが、次の章で扱う二人目の検討です。
二人目をどう入れるか|夫婦・パート・外注の分岐点
会員が30名に近づくと、一人での運営は現実的な限界に触れます。ここでの選択肢は3つあり、それぞれ入れるべきタイミングが違います。
| 選択肢 | 向いている状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 夫婦・家族で分担 | 会員20〜30名。人件費を抑えたまま稼働を1.7倍にしたい | 役割を明確に分けないと二重対応になる。生計が同一なので事業リスクも共有される |
| 事務のパート・アシスタント | 会員30名超。お見合いの日程調整だけで手一杯になっている | 会員情報を扱うため雇用契約書に守秘義務を明記する。連盟のシステム利用権限の範囲も要確認。家族に手伝ってもらう場合も、青色事業専従者にするなら届出が要る |
| 外注(写真・広告・サイト) | 集客の時間が取れないと自覚した時点。会員数を問わない | 婚活の相談業務そのものは外注できない。切り出せるのは集客の制作物まで |
順番として合理的なのは、外注(集客)→ 家族の分担 → 雇用です。集客の制作物は最初から外に出せるうえ、時間が空けばそのまま会員数の伸びに変わります。逆に、会員対応そのものを人に渡すのは最後にしてください。前章のとおり、この事業の商品は担当者との関係そのものだからです。
夫婦経営については、うまくいっている形にはひとつの共通点があります。会員と接する担当は一人に固定し、もう一人は事務と集客に回るという分け方です。両方が会員に接すると、会員から見て「どちらに相談すればいいのか」が曖昧になり、伴走の密度がかえって下がります。二人いることを強みに変えるなら、接点ではなく裏側を厚くするほうが確実です。
勤務カウンセラーから独立する場合に変わること
すでに結婚相談所で働いていて独立開業を考えている場合、実務のスキルは持ち込めます。変わるのは仕事の中身ではなく、時間配分と責任範囲です。
- 集客が自分の仕事になる。勤務時代に会員が割り当てられていたなら、ここが最大の変化です。前掲のとおり専業でも稼働の半分近くを集客に使う前提で計画してください
- 単価と料金設計を自分で決める。月会費・入会金・成婚料をいくらに置くかで、必要な会員数が変わります。開業資金の記事の内訳表に自分の料金を入れて逆算するのが早道です
- 連盟をどこにするかを自分で選ぶ。勤務先の連盟がそのまま最適とは限りません。費用体系と会員層は連盟ごとに違うため、連盟6社の比較記事で条件を並べたうえで決めてください
- 収入が会員数に完全連動する。給与のような下限がなくなる代わりに上限もなくなります。開業直後の12〜18ヶ月は収入が立ち上がらない前提で、生活費を別に確保しておくのが安全です
逆に変わらないのは、お見合いの組み方、交際中のフォロー、成婚までの見立てといった実務そのものです。勤務経験がある人にとって、この事業の参入障壁は集客の一点に集約されます。
結婚相談所を経営するには何が要るのか
ここまでを整理すると、経営するために必要なものは3つに絞られます。①連盟への加盟(会員データベースと運営の手順)②会員1名あたり月2〜3時間を確保できる可処分時間 ③会員を集め続ける手段。資格も店舗も在庫も不要で、①は費用を払えば手に入り、②は自分の生活から逆算できます。不確実なのは③だけです。
逆に言えば、経営できるかどうかの判断は「③の当てがあるか」に集約されます。人脈でも、地域のつながりでも、発信力でもかまいません。最初の10名を連れてくる道筋が具体的に描けるなら、この事業は一人でも成立します。
よくある質問
個人経営の相談所は、大手と比べて会員に選ばれにくいですか?
会員から見た検索結果の入口では、知名度のある相談所が有利です。一方で、入会後の満足度を決めるのは担当者との相性で、ここは規模と関係ありません。IBJの調査でも成婚者の約9割がカウンセラーのサポートを必要だったと答えています。個人経営が不利になりやすいのは接点をつくる段階であり、勝負どころもそこだと考えてください。
夫婦で経営すると本当に有利ですか?
稼働は増えますが、自動的に有利になるわけではありません。会員と接する担当を一人に固定し、もう一人が事務と集客を担う形にすると、二人分の時間が素直に会員数の増加に変わります。両方が会員対応をすると窓口が曖昧になり、伴走の質が落ちることがあります。
独立して年収はいくらになりますか?
会員数でほぼ決まります。平均的な会員16名なら年商340〜350万円で、ここから連盟費用と集客費を引いた手残りは250〜300万円ほど。専業の上限に近い30〜40名まで増やせれば年商660〜880万円、手残りはおよそ500〜740万円が目安です(内訳は本文の表に載せています)。営業利益率が7〜8割と高い事業のため、年商と年収の差は他業種ほど大きくなりません。詳しい計算は年商と退出率を検証した記事で扱っています。
自宅で開業しても問題ありませんか?
問題ありません。お見合いはホテルのラウンジや連盟の提携スペースを使うのが一般的で、面談もオンラインで成立します。事務所を借りると固定費が先に立ち上がるため、会員が増えて必要になってから検討すれば十分です。
一人で始めると孤独ではありませんか?
会員対応の判断を相談する相手がいない点は、実際に一人経営の負荷になります。多くの連盟が定例会や研修、加盟相談所どうしの交流の場を用意しているのはこのためです。連盟を選ぶときは、費用だけでなく相談所どうしの横のつながりがあるかも確認しておくと、開業後の消耗が減ります。
まとめ
- 会員1名にかかる時間は月2〜3時間(お見合い11回・在籍8.4ヶ月から積み上げ)
- 上限は副業で約12名、専業で約34名、夫婦二人で約58名
- 業界平均の16名は副業レベルの投下時間と一致する。一人経営の限界は思ったより外側にある
- 制約になるのは会員を見る時間ではなく会員を集める時間。集客の枠を先にカレンダーへ入れる
- 個人経営の強みは担当が変わらないこと。成婚者の約9割がカウンセラーのサポートを必要だったと回答
- 二人目を入れる順番は外注(集客)→ 家族の分担 → 雇用。会員対応を人に渡すのは最後
「一人では手が足りないのではないか」という心配であれば、その必要はほとんどありません。時間の計算上、一人でも専業なら30名超を見られます。ただしそれは会員が集まればの話で、稼げるかどうかを決めるのは最後まで集客です。会員対応と同じだけの時間を集客に使い続けられるか。ここが決まれば、あとは連盟の条件を並べて選ぶ段階に進めます。
一人で見られる人数が分かったら、次は会員をどこから連れてくるかです。登録会員107,597名の母数があれば、自分の会員に紹介できる相手には困りません。加盟店1社あたりの会員数も増え続けています。会員を集める力があっても、紹介できる相手がいなければ成婚は生まれません。資料で条件を確認してください。
無料。この段階で加盟を決める必要はありません
(IBJ公式サイト/登録会員数107,597名・加盟相談所4,783社)
この記事を書いた人
成田 風輝(なりた ふうき)
結婚相談所開業ナビ 調査責任者。上場企業のIR資料・公的統計・各連盟の公式公表値をもとに、業界の数字を検証して記事にしています。M&A仲介の手数料を比較するM&A手数料ナビも運営。